デス・オーバチュア
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「ひゃははははははははははっ！」 笑い声と共に青銅の鋸が振り払われた。 鋸が通過すると、空間、物質の区別なく全てが剔り取られていく。 「っ！」 受けることを不可能と判断したネツァクは宙に跳躍してかわした。 「ぎゃははははははははっ！」 ラッセルは型も何もない乱雑さで鋸をデタラメに振り回す。 それだけで充分だった。 鋸の剔ったいくつもの空間の断裂が巨大な『網』と化し、空中のネツァクを捕獲しよとした。 いや、捕獲ではなく捕殺と言うべきだろう。 網を構成する一本一本の糸にあたる空間の断裂はあらゆる物を両断する絶対の刃、この網に包まれた瞬間、ネツァクは無惨な肉片となるに違いなかった。 「……その力は認めるが……粗すぎる！」 ネツァクは空を蹴ると、自ら網へと飛び込む。 驚くべきことは空……空気を蹴って跳んだことではない、編み目を潜るという大胆すぎる決断だった。 編み目の穴のサイズは丁度ネツァクの肩幅、飛び込む位置や角度が僅かでもズレれていればネツァクは終わっていただろう。 「……散れ！」 ラッセルの鋸を持つ左手の切り返しは間に合わない、鋸の間合いの内側の空間に飛び込んだネツァクは腰の剣を抜刀しようとした。 「はっ！ これでいいんだよ！」 爆砕音。 ネツァクの抜刀した紫水晶の刃と、ラッセルの右手の手刀が交錯して、互いの動きを止めていた。 「ちっ！」 今の手刀の一撃に絶対の自信を持っていたのか、ラッセルは舌打ちしながら左手の鋸を切り返し、空中で停止しているネツァクを切り裂こうとする。 ネツァクは鋸の刃が到着するよりも速く、ラッセルに蹴りを放ち、その反動で後方の空へと逃れた。 「紫光剣！」 ネツァクの紫水晶の剣から紫の光の刃が解き放たれる。 「はっ！ 洒落臭せえっ！」 一撃でラッセルを真っ二つにするであろう巨大な紫光の刃は、青銅の鋸の一閃によってあっさりと霧散された。 しかし、それはネツァクにとって予想済みのことであり、ネツァクの姿はすでに空にはない。 「……せめて美しく散れ！」 いつのまにか地上の、しかもラッセルの死角に移動していたネツァクは再度、紫光の刃を放った。 先程の紫光の刃程巨大ではないが、その数が違う。 剣の振りは一度でありながら、紫光の刃の数は、数十……いや、数百だった。 「だから、無駄だって言ってんだよ！」 ラッセルは鋸を両手で握り直すと、全力で振り切った。 飛来する紫光の刃が全て、空間ごと、鋸の一閃よって掻き消される。 「お前の玩具みてえな剣とは格が違うんだよ！ こいつはあらゆる魔剣や聖剣を超えた最強剣だ！ こいつにまさる剣なんてこの世に存在しねえっ！」 ラッセルは鋸を振り回し、再び生み出した空間断裂の網をネツァクに叩きつけた。 今度の編み目は細かく、ネツァクが突き抜けるスペースはない。 逃れられるはずのない攻撃、だが、網はネツァクを捕らえることはできなかった。 網が到着するよう速くネツァクの姿が消える。 ネツァクは、ラッセルが網を編み上げる以前に、すでにその場から消えていたのだ。 「閃！」 声と共に、紫の光が矢の雨のようにラッセルに降り注ぐ。 「があああぁっ！？」 紫光の矢の雨は、ラッセルを見るも無惨な串刺しに変えていた。 数百……数え切れない程大量の紫光の矢は全てネツァクに突き刺さっており、常人ならとっくの昔に息絶えているはずである。 「……へっ、痛いじゃねえか……」 紫光の矢達が全て消え去る……ラッセルの体中の穴が血を流すよりも速く次々に塞がっていった。 「その再生力……吸血鬼……いや、獣人のものか？」 上空に浮遊するネツァクが、眼下のラッセルを軽蔑したような眼差しで見下ろす。 「死臭のする腐った肉体になるのはごめんなんでね……ちょっと獣臭くなっちまったかもしれないが……野性的な魅力ってのもそうは悪くないだろう？」 ラッセルはワイルドな笑みを口元に浮かべると、獣のように跳んだ。 「がああっ！」 一瞬でネツァクの眼前に迫ったラッセルは、鋭く伸びた爪の右手を振り下ろす。 ネツァクは直前で体をひねるように回避した。 完全に回避しきれず、ネツァクの纏っていた襤褸切（ぼろき）れのようなマントが浅く切り裂かれる。 「獣人の瞬発力、腕力、体力、そして再生能力……確かに手っ取り早くパワーとスピードと不死身を得るには獣人か吸血鬼にでもなるのが一番だ……」 突然、ラッセルの右腕が肘の部分から崩れ落ちた。 「なっ！？」 ラッセルの一撃をかわす際に、ネツァクが紫光剣で切り落としたのである。 ラッセルは右手の切断面から勢いよく血を吹き出しながら、ネツァクは重さを感じさせない軽やかさで、互いに背を向ける形で地上に着地した。 「くっ、ネ……」 ラッセルが振り返ろうとした瞬間、紫の閃光が視界を埋め尽くす。 無数の紫光の『線』がラッセルを切り刻んだ。 ラッセルは無数のサイコロのような肉片となって飛び散る。 「…………」 ネツァクはいつのまにか抜刀していた剣をゆっくりと鞘に収めた。 紫光の網……瞬時に空間に現れた紫光の線により編まれた網……これ全て紫光を放つ刃による斬撃である。 編み目の均等さ、細かさ、全てラッセルの空間断裂の網とは桁違いだった。 ラッセルが一度剣を振る間に、ネツァクは二十回は剣を余裕で振るえる。 二人の間にはそれだけの実力の開きがった。 「圧倒的なパワーと絶対的なスピード……それだけで勝てる程戦いは甘くない……」 確かに獣人の肉体と全てを切り裂く鋸を得たラッセルは、パワー、スピード、さらに武器の破壊力で遙かにネツァクを凌駕する。 だが、技術（効率よく相手を殺す術）、経験（戦闘に対する熟練）、そして才能（生まれ持った戦闘センス）は、ネツァクがラッセルを遙かに上回っていた。 極められた『技』は圧倒的な『力』さえ凌駕する、ゆえに、この戦闘結果である。 「来世は武器に頼らず、自らを鍛えるのだな……」 ネツァクが、部屋を立ち去ろうとした瞬間だった。 背後に生まれた殺気。 振り返るどころか、前方に跳ぶ間もない、ネツァクは自らを切り伏せようとしてくる殺気に合わせるように、紫光の剣を頭上に斬りつけた。 一瞬だけ剣にかかる負荷、それを感じた瞬間、ネツァクは横に転がるように逃れる。 一瞬前までネツァクが立っていた場所に青銅の鋸が叩きつけられていた。 ネツァクは回転の勢いを利用し、素早く立ち上がる。 ネツァクの右手に握られた剣の紫水晶の刀身は本来の三分の一ぐらいの長さにまで切り落とされていた。 「ちっ！ 良く今のをかわしたな……」 「…………」 無数の肉片から完全に再生しているラッセルには無反応で、ネツァクは呆然と紫水晶の剣を見つめる。 「……よくも……私の剣を……」 あの青銅の鋸を受け止めればこうなるのは解っていた。 だから、一度たりとも刃を交えず、回避することに専念していたというのに……。 あの場合は仕方ない、あの背後からの不意打ちは、剣で一瞬だけ鋸の動きを止めなければ、回避できないタイミングだった。 「だが……許せない……」 「はっ！ そんな大事な剣だったら実戦に使わず、家に飾ってなっ！ ああ？ 化け物のお前には帰る家なんてないか？」 ラッセルは獣の瞬発力で、ネツァクに襲いかかってくる。 「…………」 確かにラッセルの言うとおり、ファントムさえ見限った今の自分には、家など……帰る場所などどこにもないのだ。 家族……待っている者も誰もいない。 何もない、誰もいない……自分と常に共にあるのは、この紫水晶の剣ただ一振りだけだ。 友人も、恋人も、親も、子もない、孤独な自分の唯一人の相棒……それがこの紫水晶の剣である。 自分にとって、この剣はただの武器……物ではないのだ。 「今度こそ肉片一つ残さず消えやがれっ！」 空間断裂の網が編み上げられる。 ラッセルが網を作り出すのは、線……横や縦の一太刀ではネツァクにはあっさりと回避されると解っているからだ。 自分の剣速がネツァクに遙かに劣っていることが解らない程ラッセルは愚かでも自惚れでもない。 線ではなく網……すなわち面でネツァクを捕獲するのだ。 空間断裂で編まれた網は、捕獲した瞬間、ネツァクを跡形もなく切り刻む。 今度は逃がさない、網ができあがる前に、背後や上空などに移動せない、そこまで今度の攻撃は遅くはないのだ。 「…………っ！」 網が完成しようとした瞬間、ネツァクが正眼に構えた剣から何かが飛ぶ。 「がぁっ！？」 ラッセルの右手から青銅の鋸がこぼれ落ちた。 ラッセルの右手の甲に紫の水晶が突き刺さっている。 「この剣を作り直した武器職人（マイスター）はいろいろ仕掛け好きでな……」 ネツァクの剣から紫水晶の刀身が全て無くなっていた。 ネツァクは柄と唾だけになった剣を正眼に構え続けている。 「がっ……それが……どうしたああぁっ！」 ラッセルは左手を爪刃と化すと、ネツァクに飛びかかった。 ネツァクには武器は無く、ラッセルの一撃を回避する気もないかのように、動かない。 「ひゃっはははははっ！」 ラッセルの爪刃がネツァクの顔面に突き刺さろうとした瞬間、刃無き剣が紫光の輝きを放った。 ネツァクがラッセルの横を駆け抜ける。 その手には紫色の光でできた刀身の剣が握られていた。 ラッセルの上半身と下半身がズレ始める。 「水晶の刃の部分はあくまで飾りだ……紫光こそが紫光剣の真の刃……私の牙だっ！」 ネツァクが剣を鞘に収めた瞬間、ラッセルの体が横に真っ二つに切断された。 魔界の北東、鬼神の谷。 そこに住む三種の鬼の一つ、破壊を司る『鬼神』は羅刹と呼ばれていた。 「その剣を作り直した人物は、君が羅刹族であることを理解していたんだね」 紫の少年の右手には、細長く手に握れるくらいの大きさで、両端が尖り三つに分かれている特種な杵が握られている。 金剛杵（こんごうしょ）、地上では東方大陸の神々の武器である『仏具』の一つだった。 「元々、君の紫光剣ってのは、最も魔力の籠もりやすい宝石である紫水晶でできた刃に魔力を込めて強化する剣だけど……いくら、魔力で強化したって元がたかが紫水晶じゃあタカが知れている」 少年は金剛杵をお手玉する。 「でも、君が編み出したその剣術と剣は実に羅刹族本来の戦い方に近い。まあ、多分君の羅刹族としての本能の成せる技かと思うんだけど……」 少年は金剛杵を強く握りしめると、眼前の大岩を凝視した。 「炎！」 少年が右手を振ったかと思うと、大岩が最初から無かったかのように消失する。 少年の右手に握られた金剛杵の先端から紫色の炎が激しく吹き出し、炎の刃を生み出していた。 少年は金剛杵の炎の刃で一瞬で大岩を跡形もなく蒸発させたのである。 「で、君の紫光剣ってのは、こうだね」 紫の炎が消えたかと思うと、代わりに紫の光輝が吹き出し、紫光の刃を形成した。 「前はどうだか知らないけど、今の君の剣は水晶に魔力を込めるより、こうやって魔力を具現化して刃を形成した方が遙かに威力が出る。しかも、その剣は魔力の吸収や蓄積に限界が無い、君の魔力の質や量が高まれば、紫光の刃の強度や威力はそれこそ無限大に高まる」 少年がもう一度金剛杵を振ると紫光の刃が消滅する。 「まあ、自分の闘気や魔力などのエナジーを具現……つまり物質化して戦うのが羅刹族だ。君ならすぐにマスターできると思うよ。ついでに、羅刹王が最終奥義『羅刹終焉波（らせつしゅうえんは）』も教えてあげようか？ 何、遠慮はいらないよ、君は将来、羅刹王の妻になる身だ、これくらい花嫁修業として……」 羅刹王……この目の前の少年の妻になる気など欠片もなかったが、教えてもらえる技術は全て遠慮なく取得しようとネツァクは思った。 「が……があ……ぐがあああああああああああああああああぁぁっ！」 ラッセルの上半身が浮かび上がり、下半身の上に乗ると、切断面が一瞬にして消えていった。 「…………」 驚くことでもない。 細切れの肉片からでも蘇る奴だ、銅を真っ二つしたぐらいで倒せるとは最初から思っていなかった。 「ひひゃはははははっ！ 残念だったな！ 確かにお前は俺なんかの何倍も強いさっ！ 俺と違って本物の強さって奴を持っている……けどな！ お前に俺を殺しきる『力』はねえ！ だから、最後に勝つのは俺なんだよぉっ！」 青銅の鋸が独りでにラッセルの右手に吸い寄せられる。 「何度でも殺してみやがれ！ お前が力尽きるまでいくらでも殺されてやらあっ！」 ラッセルは両手で鋸を握り直すと、激しく振り回し始めた。 編み上げられていく空間断裂の包囲網。 「ほらほら！ 今度はどうやってかわすんだよっ！？」 空間断裂の包囲網がネツァクに向かって解き放たれた。 「力がが足りない？……では、これで足りるか？」 ネツァクの薄汚れたマントが瞬時に一変する。 紫の宝石で編まれたような光り輝く美しい外衣（マント）。 紫の煌めきの中に微かに翠色の煌めきも混じっており、二色の煌めきはお互いの美しさをどこまでも高め合っていた。 「なっ！？」 ラッセルが驚愕したのはその輝きと美しさではない。 外衣の変化と同時に発生した異常すぎる魔力だった。 この地上全てを覆い尽くしてもなお余りある、底の計れない無限の魔力の奔流。 「……お前を滅ぼすのは……魔王一つ分の魔力で足りるのか？」 ネツァクは無感情にラッセルに尋ねた。 「魔王っ！？」 荒れ狂う魔力は周囲を破壊しながらも、ネツァクの紫光の刀身に収束し、凝縮されていく。 「紫煌（しこう）の……」 「ぐっううっ！」 ネツァクは荒れ狂い、今にも暴発しそうな紫光の刃の剣を振りかぶった。 ラッセルの生み出した空間断裂の網は、ネツァクの突然の魔力解放の衝撃だけで掻き散らされている。 ラッセルは恐怖に引きつった表情のまま青銅の鋸を全力でネツァクに叩きつけた。 ネツァクが剣を振り下ろす前に、ネツァクを斬り殺さなければ自分は助からないという確信……恐怖に突き動かされるままに……。 「……終焉！」 振り下ろした超圧縮された紫光の刃が青銅の鋸を真っ二つに両断した。 「あ、ありえないぃっ！ ありえないいいいっ！ こんなことがぁぁっ……」 全ての魔剣聖剣を超えた最強の剣が紙切れのようにあっさりとたかが魔力を固めて生み出された刃で切断されるなど、ネツァクごときが魔王並の魔力量を持つなど……あえりない！ 絶対にあってはいけないことだ！ そんな馬鹿なことは……。 振り下ろされた超圧縮の紫光の刀身が閃光へと戻る。 刀身を作っていた魔力が一斉に一瞬に解き放たれ、紫光の閃光がラッセル……いや、世界を呑み尽くした。 「細胞……いや、原子一つ残らず消し飛べば、どんな再生能力も意味があるまい……」 ネツァクの眼前に広がるのは果ての見えない暗闇。 紫光の閃光はラッセルを跡形もなく消し去り、そのまま背後の壁を、そのまた向こうの壁を、さらに向こう側の壁を……といった具合に地平の彼方まで全てを貫いていった。 「…………」 ネツァクは元の刃の無い剣に戻った紫光剣を鞘へと収める。 「全魔力の三分の一ぐらい消費したか……？」 ネツァクは己の体の状態、特に『力』の消耗をチェックした。 厳密には自分は魔王ではないし、魔王と互角の魔力を持つわけではない。 セリュール・ルーツ（原初の細胞）、翠色の魔王ことネツァクの今纏っている外衣に蓄積された魔力を少し借りただけだ。 ネツァクは今までセルに体を奪われた者とは違う。 自らの意志でセルをただ『着ている』に過ぎないのだ。 セルの意識はネツァクの中で眠っているし、引き出せるセルの魔力量など総量の百分の一ぐらいがいところだろう。 それでも、魔王以外の全ての魔族に勝るだけの魔力量だったりするのだが……。 引き出せるセルの魔力、自らの元の魔力……その総量を考えると、今の技は撃てて後二発だ。 しかも、二発目は必要魔力が足りず、生命力まで消費するはめになり命と引き替えの発動になるかもしれない。 「……ぐっ？」 ネツァクは突然、目眩を感じ、倒れそうになった。 体中を駆けめぐった魔力が、ネツァクの体を内側から崩壊させていくような感覚。 魔力の量と出力が、ネツァクの体には本来有り得ない『モノ』であることの弊害だ。 魔界での修行で辛うじて上位（高位）魔族に仲間入りした程度の『力』と『肉体』しか持たないネツァクには過ぎた魔力なのである。 その上、純粋な魔族でないネツァクは本来の上位魔族と比べて著しく肉体の強度が劣るのだ。 過ぎた力は身を滅ぼす。 借り物の力なら尚更だ。 「私も……ラッセルのことはあまり言えないな……」 あくまで自分の魔力と剣技だけで戦う、この戦闘スタイルを変えるつもりはない。 だが、それでは滅ぼせない、勝負することすらできない敵も居る……それゆえに、セルと契約し得た力だ。 今の自分にはこの力が必要なのである。 魔界でセルは言った。 地上に行きたいと、あの存在の運命を見ていたいと。 魔王という絶対の力の塊でありながら、セルは『物』という現象割合が強いため、誰かの肉体を得ないと行動が著しく制限される……つまり、誰かに身に纏ってもらうか、運んでもらわなければ何処へも行けないのだ。 自分だけでは本当に僅かしか動けず、その僅かに動くだけでも消耗が激しくて割に合わない。 クロスから剥ぎ取られた後、セルにはネツァクしか取り憑く相手が居なかった。 だが、この際にセルにも予想外なことが発生する。 ネツァクは羅刹族、魔性族と同じくセルにとってかなり相性の良い種族なのだが、相性が良すぎるせいか、それともネツァクの意志が異常に強固なのか、ネツァクの意識を制して、体の主導権を奪うことができなかった。 思案と、ネツァクとの会話の末に、セルはネツァクと契約することにする。 自分はネツァクの中で眠り、夢としてネツァクの見たものを見て、楽しむのだ。 セルにとってはそれでも全然問題がなかったりする。 なぜなら、セルが見届けたい最高の娯楽存在こそ、ネツァクがセルの力を借りてでも守りたい大切な存在と同じモノだったからだ。 利害の位置とでもいうのだろうか？ それとも趣向の一致？ とにかく、セルはネツァクとあっさりと契約した。 ネツァクはセルの蓄えた魔力と知識を全て自分の物にできる……ただし使いこなせる限界までだが……その代わり、セルの望みを可能な限り叶えな続けなければならない。 つまり、楽しませてくれるなら、自分の力を好きに使って良いという破格の条件をセルは提示したのだった。 「……アクセル……」 あの仮面の男と決着をつける。 それがネツァクが地上に帰ってきた二つの目的のうちの一つだった。 そしてもう一つの目的は……。 「……道化はアクセルではなく、私かも知れないな……」 ネツァクは口元に苦笑を浮かべると、果ての見えない暗闇の中へと足を踏み入れていった。 一言感想板 一言でいいので、良ければ感想お願いします。感想皆無だとこの調子で続けていいのか解らなくなりますので……。 |